民事信託Q&A

民事信託士Q&A

Q1 民事信託士とは何ですか

当協会では、「民事信託士」とは、“信託業法の適用を受けない民事信託に関して、当事者の依頼により、民事信託に関する相談業務やスキーム構築のほか、受益者保護や信託事務遂行の監督等の業務を行う者としての受益者代理人・信託監督人、信託事務受託者(信託法第28条)を担える者”と定義しており、平成26年8月には名称の登録(商標登録番号第5695875号)をしました。

民事信託士を名乗る理由は、「民事信託」を社会に広く知っていただくためですが、それが利用されるためには、担い手が存在することを同時に伝える必要があります。「民事信託」を知っていても担い手が存在しなければ、利用することができず空疎であるからです。

そして、民事信託士は、財産管理業務等が法律で認められている司法書士と弁護士に限り、一定の基準に達した者を認定することにしました。依頼者との間で問題が起こった場合に、司法書士会や弁護士会が紛議・苦情窓口となることができるからです。2職種に限定することにより、会員に倫理や法令遵守、そして司法書士会や弁護士会との連携が深め易くなります。

Q2 具体的にはどのような業務を行うのですか

フロー図

多くの場合、相談者は信託のことをよく知りません。財産管理や財産の相続・遺言・贈与、また中小企業の事業承継などの相談を受けた際に、選択肢の一つとして民事信託を検討し、また提案・企画します。提案やコンサルティングに際して、また信託を設定するとき、信託期間中、そして目的が達成し終了するまで、民事信託士は主に次のような事柄を行います。

① まず相談者のニーズを確認し、必要な情報の収集・調査をして、分析・企画します。

② 他の方法・商品等と比較しながら民事信託スキームを提示します。提示に際しては、法務・財務・税務等の各専門家と連携しながら、民事信託が目的の実現に叶うものか、またどのようなリスクがあるかについて信託の設定から終了までを検証します。

③ 相談者が民事信託のスキームを理解した上で民事信託を選択した場合、必要な準備をしながら契約書又は遺言書の案を作成・提示して相談者の承諾を得ます。その後、承諾を得た契約書等の締結を補助します。

④ 契約締結後、速やかに不動産の信託登記や受託者となる一般社団法人設立手続き等を代理し、株式等金融資産の名義変更手続や銀行口座開設を支援するなど、受託者が財産管理するための必要な手続きを補助します。

⑤信託が設定され受託者が信託事務を開始する一方で(信託期間中は)、民事信託士は民事信託のスキームに組み込んだ信託監督人又は受益者代理人等に就任して受託者を監督し又は受益者の意思を伝えたり、信託事務の一部を受任したり、受託者の法律顧問として補助する役目を担います。

⑥民事信託に関連して、民事信託の関係者が遺言書を作成することとなった場合、民事信託士は遺言執行者に就任したり、成年後見制度を利用する場合の家庭裁判所への申立手続を行ったり、成年後見人等への就任等を担います。

⑦信託の目的が達成し終了すれば、受託者が残余の財産を帰属権利者等に速やかに引渡せるよう、その手続きを見守り確認します。

このように、民事信託及びその関連業務は司法書士業務や弁護士業務に大変馴染みやすいものであるとともに、専門職として高度な知識と倫理観が求められると考えられます。

Q3 受託者にはならないのですか

民事信託士および民事信託士協会は、当面受託者にはなりません。理由は、信託業法の制限があるからです。ただし、信託業法等の改正があった場合には、改正に伴う適正な民事信託の引受けを担うことも想定しています。

Q4 そもそも何故、民事信託士を育成するのですか

遺言代用信託や後継ぎ遺贈型の信託を取り入れるなど信託法が改正されたことによって、民事信託が利用しやすくなりました。その設定方法を工夫することで、成年後見制度を補い、相続対策や事業承継の一手段とできる他、まちづくり支援、社会福祉、社会貢献事業等いろいろな場面での利用が期待され、市民の権利の擁護と福祉の向上に寄与し得るものとして、これから益々普及して行くことが予想されます。

しかし、民事信託の担い手は少なく、利用したくても相談相手が身近にいないのが現実です。確かに、司法書士、弁護士は信託に関する一般的な知識を備えており、業法上も財産管理業務が認められていますが、具体的実務能力を備えた専門家は少数であると言わざるを得ません。

民事信託は、民法や会社法、税法が複雑に絡む新しい分野ですが、事例や判例が少ない上に、マニュアル、書式等はまだ良いものが多くありません。

また、「委託者」・「受託者」・「受益者」という三次元的な発想で、利益相反や詐害信託にも注意を払い、他の職能とも連携しつつ、その上で、依頼人の最善の利益を実現するような解答を導き出すのが、担い手の業務の役割といえましょう。

そこで、頼りになるのは、法律専門家による創意工夫と創造力です。相談の中から事案を掘り起こし、依頼者のためのオーダーメイドの仕組みを提示できる民事信託のプロが求められています。

こうした状況に鑑み、当協会は民事信託の人材の育成をめざしてその担い手の育成に名乗りを挙げました。

Q5 これまでどのような活動をしてきましたか

信託法の改正に伴い、平成23年9月に司法書士を中心とする有志で一般社団法人民事信託推進センターを設立し、以降、信託にかかわる関係機関や諸団体との連携を密にするとともに、様々な角度からの事例研究を継続し、民事信託に精通している方々を招いて定期的に研修を行うなどして、民事信託の活用に関してあらゆる視点から研究を積んできました。

また、平成24年9月に開催したシンポジウム「民事信託をいかに推進させるか」においては、民事信託の持つ高齢者、障害者、さらに個人間、親族間における財産管理機能および権利擁護機能に注目して、2004年信託業法改正および2006年信託法改正の国会の附帯決議の具体化を求めるとともに民事信託の活用を広く社会に訴えるため、『民事信託推進宣言』を発しました。

そして、これまでの活動によって、民事信託を担える者を育成する必要があると痛感し、業務遂行のための研修を積み、必要な知識や倫理観を満たした者を「民事信託士」として公表し、市民の期待に応え、且つ適正な民事信託の活用や普及に貢献することを目指すため、この資格の認定・研修・研究・情報交換などを司るための組織として一般社団法人民事信託士協会を設立しました。

そして今回、民事信託士の第一期生が誕生しました。

Q6 司法書士が民事信託に取り組める法的根拠を教えてください

司法書士が民事信託士として民事信託を行う法的根拠は、司法書士法施行規則に附帯業務として財産管理業務等が明文化されたことにあります。直接的には、信託監督人、受益者代理人等の地位に就いたり、継続的な相談業務として法務顧問契約を結んだり、信託契約書等を作成する権限が認められています。但し、当事者間や相談等において利害対立が顕著となり紛争性を帯びてきた場合には、弁護士法との関係で業務範囲外となるので、注意が必要です。なお、弁護士法第30条の5の弁護士法人の業務として、法務省令である弁護士法人及び外国法事務弁護士法人の業務及び会計等に関する規則第1条に規定していますが、その第1号、第2号には、前述した法務省令である司法書士法施行規則第31条第1号、第2号と同様の条文が規定されています。

Q7 民事信託士にはどのような能力担保を考えていますか

当協会では、以下のような体制によって民事信託士の能力を担保することとしました。

第1に、民事信託士検定を受けることです。検定を受けることができるのは、司法書士と、弁護士資格のある方です。研修プログラムを終了した後、合否の判定を経て「民事信託士」となる資格が付与されます。

第2に、民事信託士名簿の作成です。検定に合格した方は、当協会に入会していただくことで「民事信託士」の名称を使用することが可能となります。当協会は、民事信託士に関して「民事信託士名簿」を作成し管理します。民事信託士の資格は、3年で更新することを予定しております。

第3に、継続研修の実施です。民事信託士は、日々その研鑚を行い、能力の向上に努める必要があります。また、情報交換を行い、顔の見える関係をつくることが重要となります。そこで、義務研修を予定しております。この研修への参加は、3年毎の名簿更新の際の判断材料となります。

Q8 民事信託士はどのようなスタンスで取り組むのですか

従来からの相続や遺言等で蓄積された司法書士・弁護士の専門的実務能力を大いに発揮します。今までの業務実績を民事信託の土台とします。

次に、15年に亘り実践されてきた成年後見業務の経験を生かします。成年後見は、財産管理と身上監護のために本人から預貯金通帳、保険証、不動産権利証等を預かり、本人の権利擁護と日常生活の支援を行うものです。この実務において、適正な財産管理の方法、身上配慮義務、善管注意義務、利益相互、家裁への報告、医師や介護関係者との連携の方法などを学んできました。現時点で、民事信託士が受託者として財産を預かることはしませんが、相談や信託スキーム構築の業務などによって間接的に財産管理に関わることになりますので、これらの知識を民事信託のベースにします。

依頼者等の判断能力のレベルの把握にも成年後見業務の経験が役立ちます。

判断能力については、後見・保佐・補助、そして任意後見利用の際、どのレベルの判断能力が必要とされるか、何によって計られるか(医師の診断書や長谷川式簡易知能評価スケール等)を学びました。民事信託士においても委託者や受益者にどのレベルの判断能力が要求されるか、おおよその検討はつくものと思われます。よって、成年後見制度の利用者と民事信託の利用者との適切な振り分けが可能となります。

一方、成年後見においては不正防止等のため、倫理が叫ばれてきましたが、これは民事信託においても遵守することは当然です。成年後見のように家庭裁判所に対する報告義務がないことから、民事信託士に違法や不法の目的のための信託を横行させず、適切に運営されるよう職業倫理を保持することが要求されるものと考えられます。もちろん、成年後見と異なり、直接財産を預かることはありませんが、財産管理分野に関わることになりますので、倫理は徹底しなければならないと考えております。「成年後見の経験が当然民事信託の分野にも生かされるだろう」これが信託のベースになっていると考えます。
スタンス

Q9 今後の展望を教えてください

今、民事信託が新たな時代を迎えようとしています。かつて信託と言えば、信託銀行等が業として行う「商事信託」を指しましたが、最近では、個人間、親族間の財産継承や中小企業の事業承継支援機能や高齢者や障害者の生活を支援する機能をもつ民事信託への関心が高まっています。財産を増やすことよりも現存している財産を保全し、そして生活支援や福祉の増進のために有効に使う、さらに次世代への「確実な承継を遂げる」という志向が高まって来たからです。信託が幅広く利用される時代が到来してきた感があります。

しかし、民事信託は時代の変化に追いつかず、民事信託の周辺は混沌とした法律関係ないし法律状態のまま取り残されています。こうした現状を前に、法的な整理を行い、複雑な法律関係を規格化・定型化し、誰でも使える民事信託として世に送り出したいと考えております。

そうは言っても、民事信託士を育成する当協会のプログラムや教材等は未だ不十分です。学者、信託銀行関係者を始めとする多くの方々のご支援を心からお願いいたします。